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 深海とは・・・

▼深海とは

 

一般的に海面下 200 m より深い海を指すが、厳密な定義は存在しない。

 

深海は光合成に必要な太陽光が届かないため、表層とは環境や生態系が大きく異なる。

高水圧・低水温・暗黒などの過酷な環境条件に適応するため、生物は独自の進化を遂げており、表層の生物からは想像できないほど特異な形態・生態を持つものも存在する。

また、性質の相異から表層と深海の海水は混合せず、ほぼ独立した海水循環システムが存在する。

 

21 世紀の現在でも大水圧に阻まれて深海探査は容易でなく、大深度潜水が可能な有人や無人の潜水艇や探査船を保有する国は数少ないなど、深海のほとんどは未踏の領域である。

 

 

地球の海の平均水深は 3,729 m であり、深海は海面面積の約 80 % を占める。

 

水深 4,000 - 6,000 m には地球の表面積のほぼ半分を占める広大な深海底が存在し、ここまでを深海帯としている。これより深い超深海帯は海溝の深部のみが該当し、海全体に占める割合は 2 % に満たない。

世界最深地点は、西太平洋に位置するマリアナ海溝のチャレンジャー海淵で、海面下 10,920 m ± 10 mである。

 

深海は深度によって次のように区分される。区分者により数値が異なることがある。また、深海層を含めない場合もある。

 

中深層 200 - 1,000 m
漸深層 1,000 - 3,000 m
上部漸深層 1,000 - 1,500 m
下部漸深層 1,500 - 3,000 m
深海層 3,000 - 6,000 m
超深海層 6,000 m 以深

 

 

 

▼水温

 

深海の海水温度
深海帯では水温はほとんど変化せず、水深 3,000 m 以深では水温は 1.5 ℃ 程度で一定になる。

 

低緯度海域では水深 200 - 1,000 m 付近で水温が急激に変化する温度躍層 (thermocline) が存在し、中緯度海域では暑い時期だけ生まれる。高緯度海域では存在しない。

水深 300 m 付近まで混合層と呼ばれる海水が上下に移動できる領域があり、ここでは低緯度海域の赤道直下では 30 ℃ 付近、中緯度海域は 10 - 20 ℃ となり、高緯度海域は表層から深海まで 2 - 3 ℃ 前後で一定となっている。低・中緯度の両海域では 1,000 m より深い深海は 2 - 3 ℃ 前後となって一定となる。

 

 

▼水圧

 

水深が深くなればなるほど大きな水圧がかかることになり、有人潜水艇などの内部気圧を地上と同じに保つためには、10 m ごとに 1 気圧ずつ増える周囲の圧力に抗するだけの強度が求められる。

深海生物はすでに体内の圧力が周囲の水圧と同じになっており、深海中では押しつぶされることはないが、逆に短時間で海上に引き上げられると体内に溶け込んでいたガスが膨張してしまう。

 

 

▼密度

 

深海の海水密度
密度躍層海水は塩分をはじめさまざまな物質が溶け込んでおり、純水より密度は高く 1.024 - 1.028 g/cm3 程度になっている。海水密度は塩分濃度などと共に温度にも影響を受ける。密度も水温同様に緯度と深度で異なっており、低緯度海域では水深 300 - 1,000 m 付近で密度が急激に変化する密度躍層 (pycnocline) が存在し、中緯度海域では夏だけ生まれる。高緯度海域では存在しない。

水深 300 m 付近まで混合層と呼ばれる海水が上下に移動できる領域があり、ここでは低緯度海域では 1.024 g/cm3 付近、高緯度海域は表層から深海まで 1.028 g/cm3 強で一定となっていて、中緯度海域は両者の中間となる。いずれの海域でも 2,000 m より深い深海は 1.028 g/cm3 強の一定となる。

 

 

▼塩分

 
深海の塩分濃度
塩分躍層塩分濃度は緯度によって異なっており、表層近くでは 3.3 - 3.7 % といくぶん開きがあるが深度が深くなると緯度に関係なく 3.5 % 前後の一定値に近づいてゆく。北と南の回帰線付近が最も塩分濃度が高く、高緯度では薄くなり特に北極では 3.3 % を下回るまで薄くなる。赤道付近では 3.5 % 付近となる。水深 300 - 1,000 m 付近で塩分濃度が急激に変化する塩分躍層がある。

 

 

▼太陽光

 

光合成に必要な太陽光は深海には届かず、したがって植物プランクトンは深海には存在できない。しかし水深 1,000 m 程度まではわずかながら日光が届いており、深海の生物はそれを感知できる大きな眼を持つものが多い。

赤い光は青い光より多く水分子に吸収されるため、10 m より下では物がすべて青く見える。70 m では地上の 0.1 % の光しかなく、ヒトの目ではかなり暗くなり、200 m ではヒトでは色を感じられなくなり、灰色の世界になる。400 m を限界にヒトの視覚では知覚できない世界になる。

 

 

▼海水の混合と分離

 

水深 200 m までは海水が自由に混合するが、温度躍層をはさんで上下の海水は混合することはない。

 

 

▼深層水

 

深海には深層水と呼ばれる、表層とは違った物理的・化学的特徴を持つ海水が分布する。表層と違い風の影響を受けないが、地球上の 2 箇所(北大西洋のグリーンランド沖と南極海)で形成される深層水(北大西洋深層水と南極低層水)は熱塩循環によってゆっくりと世界中の海洋を移動している。

また、北太平洋には深度数百 m に北太平洋中層水と呼ばれる海水が分布することがわかっている。

 

 

▼深層流

 

水深数千メートルの深海でも秒速数 cm の海水の流れがあり、深層流と呼ばれる。深層流と日本で飲用水として販売されている「深層水」とは全く関係がない。深層流は地球規模の熱塩循環を構成している。核実験の時に生じたトリチウム(三重水素)という放射性同位元素を利用して、一度深海に潜り込んだ海水が再び表層まで湧き上がってくる時間を測定した結果、平均して 2,000 年程度掛かっていることがわかった。

 

 

▼生物

 

深海は大きな水圧と低い水温、さらに光のない暗黒の世界と生物にとっては過酷な環境である。光合成に利用可能な太陽光は水深数十 m 程度までしか届かない。

深海では、深海魚など表層とは全く異なった形態や生態をもつ生物が多く生息する。しかし深海の生物は現代では意外と身近な存在でもある。サクラエビ、ヒゲナガエビ、ホッコクアカエビ(アマエビ)、タカアシガニ、ズワイガニ、タラ、キンメダイ、アコウダイ、メルルーサなど、漁具や冷凍・運搬技術の発達により、食用として流通するようになった深海生物は枚挙にいとまがない。

微生物にとっても深海はやや苛酷な環境であり、深度の増加に伴い数が減少する。光合成を糧とするシアノバクテリア類は早々にいなくなり、表層ではほとんど検出されない古細菌類の割合が増加する(1,000 m 以下で細菌類と古細菌類の検出数がほぼ等しくなる[3])。これらは培養に特殊な条件を必要とするものが多く、ほとんどが培養不可能種である。例えば、マリアナ海溝から発見された Moritella yayanosii は、増殖に 500 - 1,100 気圧もの高い圧力を要求する。